◇ ある友情の物語 ◇

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 これは、数年前の話。

 私の名前は愛(アイ)。
 数年前の私には好きな人がいて、その人は勇樹(ユウキ)っていう名前の人だった。
 後で知ったことなんだけど、じつはその人も私のことが好きで、でも私達はお互いに自分の気持ちを言えず、何ともありきたりな青春時代を送っていたわけである。
 その青春時代が少し特別だったのは、私達二人の共通の友達。
 その友達は人間じゃなくて、正確な名前は忘れたんだけど、確かイチゴとかブルーベリーとかで作られる甘くてパンの上に塗って食べたらおいしいものの名前と一緒の名前だったような気がする、まあそんな名前がついたおじいさんが営んでたパン屋さんで創られたらしかった。
 そしてその人(パン?)はとても親切でおせっかいで、私達の想いを知ってお互いの想いが伝わるように協力してくれたわけである。
 私達はとても仲が良くて、彼は人間じゃなかったけど、よく一緒に遊んだものである。
 そしてそのパンの彼の仲介で、私達は付き合い始めた。
 その後、私はその勇樹という人から聞いてしまったのである。パンの彼が私に想いを寄せていたことを。
 そんな時、パンの彼がなにやら急におじいさんの事情で遠くに引っ越さなければならないという話が耳に入ってきたのである。
 私達二人は、なんとなくそれがわかっていて、やっぱり、という気持ちが強かった。
 というのも、彼はやっぱり…その、人間じゃないから、私達二人以外の皆は結構軽蔑の目でパンの彼を見ていたのである。
 だから引越しは実はおじいさんのパンの彼に対する配慮で、他人に優しく自分には厳しいパンの彼はありがたいことにそれに気づいてはいなかった。
 こっそり私達二人でおじいさんに聞きにいくと、パンの彼とおじいさん達は人里から離れたとてもとても遠いところに言ってしまうと言った。
 つまり、パンの彼にはもう会えなくなるということだった。
 人里から離れているということはつまり、電話ができないのはもちろん手紙も送れないということである。
 私達二人はとても悲しんだ。
 私に限っては加えて、パンの彼の想いに気づけなかった、そしてそれに答えれなかったことでパンの彼と最後に会ったときも言葉に詰まって何も言えなかった。
 パンの彼と一緒に行きたかったけど、それはおじいさんの迷惑になってしまうし、諦めるしかなかった。
 そんな私達を見て、彼は言った。

「これから先、僕が友達だというのは君達だけだよ」

 私は、その時初めてパンの彼の瞳に悲しみが宿っていたことに気づいたのだ。
 だから遠いところにいくという彼の決心を無駄にしないために、その言葉を忘れないことを、私達二人は誓った。


 これは、彼が有名になる、ほんの少し前のお話。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件、あるいは子供向けに書かれた彼の有名なアンパンの話もしくはそのテーマソングなどにはいっさい関係ありません。

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